前回のインタビュー記事に続く第2回インタビュー。今回は、ファンドマネージャーの本業である投資、運用に迫った内容となっている。
—川合さんのこれまでのキャリアを教えてください
川合:新卒で証券、生保、信託の運用、トレーダー部門を受け、内定を得た中から三井住友DSアセットマネジメントに入社しました。最初の1年半はバックオフィスで基準価格の算定を担当し、その後日本株アナリストとして運用部に配属されました。日本の中小型株のカバレッジを担当し、その楽しさから中小型株の世界で生きることを決意しました。1年間のOJTを経て、中小型グロースファンドを運用するチームに参画し、上司と共に複数のファンドを運用していました。その後、ロンドンビジネススクールへ留学し、帰国後はAPACの株式ロングショート戦略を行う外資系ヘッジファンドへ転職して中小型製造業と自動車セクターをカバレッジするアナリストになりました。
日系ロングオンリー、外資系ロングショートにて10年弱働いていましたが、主な仕事はIR取材等のボトムアップリサーチを通して中小型株の投資アイデアを発掘し、上司のファンドマネージャーにピッチすることでした。その後2021年に独立し、現在のfundnote株式会社(旧・KxShare株式会社)を創業しました。
中小型株を選んだ理由ですが、他のアセットクラスよりも勝てる可能性が高いと思ったからです。投資は自分が他の人よりも詳しくなることで利益を得られるものと考えています。米国株については、米国人には敵わないと思い、同様にアジア株についてもアジア人には敵わないと考えてまず日本株を選択しました。その中でも中小型株は大型株と比較して、自分の感性とリサーチによって他の投資家との差をつける余地が大きいと考えており、アナリスト経験を経てその魅力にどっぷりと嵌っていきました。
—ロンドンビジネススクールでは何を学ばれましたか
川合:金融論の修士号を取得しました。周囲には各国から運用会社や政府系金融機関での勤務経験を持つエリートが集まっていて、彼らとの良好なネットワークを構築できたことも大きかったです。将来的にバイサイドでファンド運用を行いたいと考えている同級生も多く、投資銀行やFASからヘッジファンドへのキャリアチェンジやアナリストからファンドマネージャーへの転換を希望している人が多かったです。そのメンバーと一緒に学べたことでとても刺激になりました。
『Value Investing(バリュー投資)』というLBSで有名な講義を受講したことが一番の収穫でした。講義は約20人の選抜形式となっていてMBAと金融論の学生達がこぞって応募してきていました。講師はEddie Ramsdenという現役ヘッジファンド創業者で、毎週1銘柄のリサーチレポートを提出して添削してもらうという内容でした。最終課題はコールドコールを通して実地調査を行うことが求められます。私もアメリカの医療機器メーカーについて現地の医師、クリニックや医療機器商社へのヒアリングを行い、100人程の聴衆の前でプレゼンしました。
修士課程を終えて帰国してしばらく働き、この巨大な資産運用業界の中でもっと様々な経験をして世界を広げてみたいと考えて、ヘッジファンドに転職しました。
相場の動向に関係のない、絶対リターンを求めれる環境へ
—1社目のアセマネと2社目のヘッジファンドの違いはありますか
川合:同じ資産運用業界ながら、戦略も違えば組織の大きさや働く人々も全く違うものでした。アセットマネジメントではロングオンリーファンド(お預かりした資産のほぼ100%を使って株の買って運用する)を運用していて、TOPIXを上回るパフォーマンスを出すことが仕事でした。相場が悪くマイナスになったとしても、TOPIXをアウトパフォームすれば高く評価されます。私の所属していたグロースチームは2-3年先まで保有可能なクオリティの高い成長株を選ぶスタイルで、長期的な視点から銘柄を探していました。
ヘッジファンドでは、相場の動向に関係なく絶対リターンを出すことが求められました。短期的なカタリストのある投資アイデアを探し、それが起きた時に株価がどれくらい上がるかなどを分析していました。会社として非常に緻密な調査を追求していたため、物事を深く調べる習慣が身につきました。このようなリサーチに対する真摯な姿勢が今でも役に立っています。
— fundnote株式会社を立ち上げたきっかけを教えてください
川合:SNS等での情報発信をしつつ、ファンド運用をしてみたいと考えたためです。コロナ禍で株式市場の参加者が増えた頃から、株式市場の在り方は大きく変わりました。ファンダメンタルズだけではなく様々な情報により株価が動くようになっていったように思います。情報が氾濫するSNS社会の中で、正しいファンダメンタルズを発信しつつ、地に足のついた運用をしたいと考えていたところ、社長の渡辺(https://twitter.com/katsumawatanabe)と意見が一致し、一緒に起業することに至りました。
fundnoteでは、IPOクロスオーバー戦略でファンドを運用しています。IPO後5年以内のセカンダリー市場を中心にロングオンリーで保有するのがメインですが、一部では上場直前の未上場株も組み入れてIPOでの株価上昇を狙っています。IPOセカンダリー市場はセルサイドアナリストのカバレッジが少なく、発行体のIR体制が不十分な場合も多いため、情報格差からリターンを得やすい領域だと考えています。また情報格差を埋めるような支援を通して適正価格に収斂させていく活動も行っています。IPOセカンダリーは投資家の注目度が高く、ポジションテイクから利益を得られるまでのスピードも速いと思っています。
自分が正しいと信じる方向へ。投資における価値観や軸を定めている。
—運用における川合さんの強みはどこですか
川合:他人の意見に左右されず、自分が正しいと信じる方向へリスクを取りリターンに繋げる能力です。投資における自分の価値観や軸をしっかりと定めているので、他人とは異なる行動も自信をもって取ることができるのかなと思っています。
また、IPO銘柄の目論見書を読んでその会社の実力を読み解く能力も強みだと思っています。目論見書に書かれた定性・定量両面の情報を照らし合わせ、その会社の計画や言葉が信頼できるかどうかを判断する点において、人より長けていると自負しています。子供の頃の夢のまま目指してたら、良い警察官になれたかもしれませんね。もちろん最初の実力判断においてミスすることも多いのですが、その後に出てくる決算発表やIR取材を通してどんどん解像度を上げて行って、他人よりも早いタイミングで会社の評価を判断できると信じています。
—株式投資の魅力とは何だと思いますか
川合:個人投資家も機関投資家も含めた多くの市場参加者が同じ数字を見て異なる解釈をし、その解釈力がリターンを左右するという点が面白いと思っています。計算の速さによるトレードの瞬発力では機械には勝てないものの、その後より大きなリターンを出すのは機械ではなく人間の解釈力と想像力だと思っています。現在、個人投資家向けの情報インフラが整備されているうえに情報収集のレベルも高く、得られる情報は機関投資家とそう変わりません。得た情報から未来を想像する解釈力が勝負を分ける時代に入っていると思います。
未来を想像する解釈力を養うには、さまざまな事例を学び、それらを頭に入れることだと思います。私は成功した会社の過去の事例を分析し、いつでも参照できる引き出しを増やすような努力をしています。例えばキーエンスメソッドを用いて成功している会社は多くありますが、その真髄を探る為に書籍を通してキーエンスの歴史を学んだりしています。アナリストになりたての頃、リサーチを始めるときはXX年分の有価証券報告書を全部読んでこいという指導をしていただいた先輩がいて、(いまはIPO銘柄がメインなのでそれは出来ませんが、)そのような歴史を知る姿勢を非常に意識しています。
—ヘッジファンドや公募投信にお金を預けるメリットを教えてください
川合:銘柄調査や事例研究に時間をかけられるという意味で、ファンドを生業として責任を持って運用している機関にお金を預けるメリットがあると考えています。ファンドマネージャーを選ぶ際には、独自性のある銘柄選定ができ、人より早く良い銘柄を組み入れる能力を持つかどうかを見極めて欲しいです。例えば、2年前の流行りの銘柄をそのまま保有しているようなファンドよりも、その時に旬な銘柄をしっかり組み入れているファンドの方が、スキルが高いと思っています。
ファンドマネージャーという職業や川合直也を少しでもご理解頂けただろうか。少しでも多くの方が「投資」に興味をもって頂けると幸いである。
(完)